ギライド 塵煙の中に 其の二

ゴォォォォォォォオッ・・・

レポート荒野の特徴とも言える、常に吹く風速25メートルの暴風


この暴風はサーバーガのちょい手前まで吹いている

理由は、まぁ色々あるが・・・難しい事はめんどい


因みにこの風は竜巻の様に渦を巻いている


だから、中央は全くの無風

そして其処にはホープ国立の中継局があるはずだ


まずは其処を目指す


俺は寡黙に歩き続けている


暴風域には生命の気配は皆無

凶暴なモンスターも相当な力が無ければ荒れ狂う風には耐えられない


だから、モンスターも少ないのだが・・・


ザッ


足音が飛ばされなくなった

どうやら、中央の無風地帯に入ったらしい


中継局まで後500メートル

中継局に着いたらコーヒーでも・・・


バキバキバキバキ!


地面が大きな力で踏みしだかれる

前方、ちょうど100メートル地点くらいにソイツは居る

俺は腰のサーベルに手を掛ける


敵は大体7メートルくらいの体長

六本脚の茶色い狼が二足歩行をしている所を想像してもらうのが一番わかりやすい

四本の腕の先の爪が異様に尖っている


眼は赤く充血し、半分裂けている耳が捲れ上がっている

口からは涎をボタボタと垂らし、明らかに俺の方を向いている


「狼ねぇ・・・ちょいと中二臭いがブラウン・ジ・ウルフなんてのはどうかね」

冗談はそこそこに、俺は地面を凹むほど強く蹴り上げ、舞い上がる


「先手必勝ッ!」

俺は渾身の抜き打ちを放つ

ガキィィン!!


刃が体には届いていない


というより、どう考えてもサーベルは抜き打ちに合っていない

本当はジャパンの日本刀が一番『斬る』事に関しては世界一だし、欲しいんだがな


勿論、さっきの一太刀で解った事は他にもある

まず、あの狼の体毛は超硬質

刃物は通らない

だったら打撃だ!、という訳には行かない

下手すれば、拳を痛める


ならば最適なのはコレだ


ストッ

軽い衝撃と共に着地した俺は、一瞬で構えを取る

そして、次の一瞬で・・・




ギライドの右腕が消える



代わりに、周りにはギリギリ視認できるサイズのチリがいくつも溜まる


狼は戸惑っている

相手は自分の間合いの中で棒立ち

オマケに右腕は何故か無くなった


今は絶好のチャンスなのだが・・・


狼の中の野生の本能がサイレンを鳴らす

危険だ

危険だ

危ケ・・・

「ガァァァァァァァゥゥウォォオウ!!!!」


雄叫び、そして風になる四本の腕

間合いのど真ん中で棒立ち、更にガードをとる右腕は無い


しかも、人間の骨格がコレに耐えられる訳が無い


最も原始的で、最も重い一撃

まさにギライドの命は風前の灯火だった


だが、俺は不敵に笑った


無い右腕を前に突き出すイメージで、腰を落とす


吹っ飛びな!獣風情が!


「グレイブスモーク!!」


叫びと同時に、消失している右腕周辺に漂っていたチリが、エネルギーによって一方向にベクトルを決められ、高速で翔ぶ


1ミリにも満たないチリ、体毛の間くらいなら通り抜ける

そして、今のチリ一粒当たりの威力は銃弾を軽く凌駕する



ギュィィィイ!!


攻撃体制に入っていた狼は、躱すことが出来ない


狼の充血した眼が、こちらを睨み付ける


だが、俺はしっかり見た


狼の両目には、恐怖の色が滲んでいた